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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)1414号 判決 1949年2月22日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人鍛冶利一の上告趣意第一點について。

刑の執行を猶豫すべき情状の有無に關する理由は判決にその判斷を示すことを要する事項ではなく、またその證據理由を示す必要もないところであるが、刑の執行を猶豫すべき情状の有無と雖も、必ず適法なる證據にもとずいて、判斷しなければならぬことは所論のとおりである。ただこの情状に屬する事項の判斷については、犯罪を構成する事実に關する判斷と異り、必ずしも刑事訴訟法に定められた一定の方式に從い證據調を經た證據にのみよる必要はない。たとえば公判において舊刑事訴訟法第三四〇條の手續を履踐しない上申書の類のごときものでも、これを採って、或は被告人の素行性格等を認め、或は被害辯償の事実を認定して、これを、刑の執行を猶豫すべき情状ありや否やの判斷に資することは毫も差しつかえないところである。原判決がこの點に關し「執行猶豫を言渡さない理由に關する説明が、刑事訴訟法上適法な證據を伴わない判斷を包含しているとしても、これを以て、その判決を破毀すべき理由にはならない。」と説示したのは、その措辭において、明確を缺く憾みはないとはいえないけれども、、その趣意とするところは前段説明するところと同旨であって、その「刑事訴訟法上、適法な證據云々」というのは、同法に制定せられた特段な證據調を經ない證據でも採ることができるという意味に解するのが適當である。從って、所論のごとく、原判決は證據によらないで事実を認定することを是認した違法ありとの主張はあたらない。飜って、第二審判決が被告人に對して刑の執行を猶豫しないことを相當とする情状として判示したところについてみるに、判決にその情状を認定した證據上の説明を缺くのであるから第二審裁判所がいかなる證據にもとずいてどの事実を認めたものであるかこれを詳にし得ないけれども、右情状に關する事実は一件記録上これを認定し得られないものではなく、また經驗則に反して事実を認定した證跡もない。所論第二審判決が「當時、食糧事情は豊作によって、漸次好転しつつあって云々」と判示した點についても、同裁判所は、被告人所在の地方事情についてその公知の事実にもとずいて、右のごとき判斷をしたものと解するのが相當であって、これをもって、證據なくして判斷をしたものということはできない。要するに論旨は原判決の趣旨を正解しないでこれを論難するに歸着するのであって、その所論のごとき憲法違反の點につき判斷するまでもなく、これを再上告適法の理由とすることはできない。

(その他の判決理由は省略する。)

以上本件上告は理由がないから刑訴施行法第二條舊刑訴法第四四六條に從い主文のとおり判決する。

右は全裁判官員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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